細田守監督×杉井ギサブロー監督スペシャルトークショー開催
6月6日~6月8日の3日間、<池袋シネマチ祭>が開催された。その特別企画として、6月7日に池袋HUMAXシネマズにて、細田守監督作品『おおかみこどもの雨と雪』、杉井ギサブロー監督作品『銀河鉄道の夜』(5月30日より初Blu-rayがリリース)の上映と、アニメ・特撮研究家の氷川竜介を聞き手に迎え、2人のスペシャルトークが実施された。
●「情感」を見事に表現した「おおかみこどもの雨と雪」
氷川:今日は尊敬するお2人の監督にお話を伺いたいと思います。まずこの3人の共通点として、文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門の審査員の経験者であるということがありますね。「グスコーブドリの伝記」と「おおかみこどもの雨と雪」が同時に受賞して、そのときは杉井監督が途中まで一緒に審査員をやっていたのですが、途中から「グスコーブドリ」が受賞有力候補となった時点で審査員を辞退されてしまったんです。一緒に審査員をしたかったのですが、心残りでした。
そして「おおかみこども」の感想を聞いていなかったんですね。なので、そのあたりのお話をぜひお願いできればと思うのですが。
杉井:「グスコーブドリ」のほうが少し早く公開しましたが、同じ年の夏に「おおかみこどもの雨と雪」を試写会で見せていただいて、感動して涙してしまいました。子供が病気になったときに獣医と小児科とで迷って結局どちらにも行けないとかね。あれって、設定なんだけれどユーモアじゃないですか。
物語の最後では、お母さんが、自立して遠くに行ってしまった娘のほうではなく、狼として生きることを決めた子供の近いところで、あの家にひとり残りながら見守るというのは非常に感動的ですよね。いろんなシーンで僕はウルウルときてしまいましたが、娘が自分の正体が狼であることを同級生の男の子に告白するところとかもやっぱりグッときてしまいましたね。
細田:杉井監督に目の前でコメントいただくというのが、光栄なんですけれども非常に気恥ずかしいものが……(笑)。
杉井:日本のアニメーションがついにここまでこれたと思いました。アニメーションってアクションは得意だけれど、キャラクターで情感を伝えることが果たしてできるのか、と。僕がアニメーションをやっていてそれはひとつテーマだったんですよ。細田監督はアニメーションの中で情感というものを、それはもう見事に伝えられていると思うんだよね。
氷川:「サマーウォーズ」はアクション要素が強かったですが、それに続いた流れがあってこそなんでしょうか?
細田:「おおかみこども」って、日本のアニメではやっていないような物語の設定ですよね。ひょっとしたら世界のアニメの歴史の中でもやっていないかもしれない。しかも親子ものなのに、子供ではなく親側に視点があるというのもきっとないだろうと思いました。
今までないものをやろうと思ったのは、アニメーション映画の表現の可能性として、アニメーションという記号を使って表現していない人生のさまざまなものが、まだあるんじゃないかという思いがあったのと、どんどん子供が減っていくような時代の中で、子供側からのぞくだけじゃない世界が、これから僕らを待っている世界の中で必要になってくるんじゃないかという漠然とした予感のようなものがあったからです。こんな映画がほかにないわけですからヤバいんじゃないかという気持ちもありましたが、でも作る必要性を感じていたんですよね。
杉井:細田監督はファミリーを描いていこうということではないんですか?
細田:そういうことではないですね。
杉井:「サマーウォーズ」なんかは田舎の大家族を描いていて。普通あんなに人数がいたら、何人かはその他大勢ということになってしまうけれど、本当にひとりひとりを見事に描き分けていましたよね。そのあとに「おおかみこどもの雨と雪」で、これもまた家族がテーマで。細田監督の中に「家族のありよう」というものがテーマとしてあるのかなと思っていたのですが。
細田:それはよく言われます。「家族というものに思い入れがあるんですか?」と。でも僕、「サマーウォーズ」を作るまでは親戚とあまり仲が良くないんですよ。さらにいうと「おおかみこども」を作るまでは、「お母さん大好き」という子ではなかったんですよね。まさか自分が親戚とか母親を題材にした作品を映画で作るとは夢にまで思わなかった。逆に夢にまで思わなかったからこそ作ったというのがあると思うんですよ。
ちょうど「サマーウォーズ」を作っている最中に自分の母親が亡くなってしまって、現実の世界では関係性をうまく整理できないままお別れのときを迎えてしまったんですね。「サマーウォーズ」のダビングのときだから、4日ぐらい田舎に帰ってまた作業のために戻ってきたりして。だからそれを振り返ってみて、なんとかしなきゃいけないという思いが個人的にあったのかもしれません。
●原作を、今の時代性から表現するということ
氷川:細田監督から見て、杉井監督の作品の魅力を教えていただけないでしょうか?
細田:皆さんはトークショー前に「銀河鉄道」をご覧になっていたんですよね。もう素晴らしいでしょう? 僕は公開当時の1985年に見て、以来ずっと見させていただいている大好きな映画です。
氷川:どんなところに魅力を感じていたんですか?
細田:コンセプチュアルなところが好きです。例えば、主人公が猫じゃないですか。猫って、笑ったり、怒ったり、泣いたりしないでしょ。僕は犬を飼っているんですけれど、犬は感情起伏が激しいわけですよね。昔は猫を飼っていましたが、猫って全然わからないですよね。わからない人のことを見るともっとわかりたいと思ってくるんですよ。
そういう感じが宮沢賢治の童話の中にもあって、それが「銀河鉄道の夜」という映画の中で猫のキャラクターを通して、積極的に自分から読み解いて考えていくような、ジョバンニの顔を見るとそういうことを感じてしまうんですよね。カムパネルラは何を考えているか本当にわからない。でもだからこそ何を考えているのかを考えさせてくれる。
坂本千夏さんという、とてもうまい声優さんがカムパネルラ役をやってらっしゃるんですけれど、その声も何か考えさせられるんですよね。
杉井:田中真弓さんのジョバンニもね。僕とずっと一緒にアニメをやってきた田代敦巳さんという音響ディレクターがどうしてもジョバンニは田中さんでやりたいと言って。僕は、田中さんといったら、元気のいい男の子役のイメージなんじゃないの?と言ったら、絶対大丈夫だと言って。彼女は、ジョバンニをやるような反面の資質も持っているから、どうしても田中さんでやりたいというので、田中さんにやってもらうことになった。
実際、本当にすごかったし、音響ディレクターというのは普段は役者さんと別の作品でつきあっているんだけれど、でもその役者さんが持っているもう一面を見いだしていて、それはさすがだなと思いました。アフレコのときも田中さんはジョバンニになりきっていましたからね。
氷川:今回Blu-rayが出たので僕も改めて拝見させていただいて、独特の間尺で声が聞こえてきて……。
杉井:そうですね。「銀河鉄道の夜」は賢治の死生観の話ですよね。「グスコーブドリ」は「銀河鉄道の夜」に比べると、ファンタジー性に奥行きがないとか言われちゃうんですけれど、賢治の作品でどちらが優れているかというと、やはり「銀河鉄道の夜」のほうだと思うんですよ。
細田:ただ、公開された年が震災があった翌年の2012年じゃないですか? 「グスコーブドリ」はその土地で困難があって、するべきことをしている主人公がいるというお話で、僕らが実際に見知った出来事とすごく近いですよね。
杉井:そうですね。ちょうど「グスコーブドリ」を作っている最中で東北の震災があって。偶然ではあるけれど、今って人と自然の関係や、科学のありようを根本的に考え直す時期だと思いませんか?
人間にとっての自然、人間にとっての科学の延長上でいろんな問題を考えてもたぶん、このままでは解決しないと思うんですよ。東北の震災というのは結論からすれば悲劇なんですけれども、人類の歴史の中でそういう問題を投じたという気が僕はしますね。
氷川:改めて「グスコーブドリの伝記」の原作を読み返すと、映画が賢治が描くものの意図を忠実に汲んでいると感じました。
杉井:それを語ると長くなるのですが……。でも、賢治の原作ではネリはブドリと再会しているんだけれども、僕の映画では飢饉で死んじゃっているんですよね。僕は原作ものをやることが多いけれども、原作通りにやるんだったら、原作を読んでもらったほうがいい。翻案することで別の作品としての価値を持つものだから作る意味があるのであって、原作の解説にしかならないのであれば、改めて映画を作る意味がないんじゃないかなと思っています
細田:宮沢賢治といういろいろな読み方や解釈をされている作家の作品だからこそ、表現の幅があると思うんですよ。僕も筒井康隆先生の「時をかける少女」の映画を作ったときに、大林宣彦監督版などこれまでさまざま映像化されたなかで、どうやって今、新しい解釈があり得るのかということを模索しました。筒井先生の作品が大好きだからこそ、40年前に書かれた中編の小説に対して、今作る意味を筒井先生に受けて、恐れ多くも投げかけるような意味があったように思います。
杉井:僕らは今生きているわけだから、例えば賢治の作品だったら、昭和初期に書いた賢治のメッセージを、今の時代の受け止め方でどう表現するかというのがありますね。
●作り手として映画に託したものと、受け手側に託したもの
氷川:ここで会場の皆さんからの質問をしていきたいと思います。「『銀河鉄道の夜』を父に勧められ小さい頃に見て、あの頃よく内容がわからなかったけれどもとても印象に残っていました。その作品をもう一度スクリーンで見ることができてとてもうれしいです。なぜ、この作品が今再び求められているとお考えですか?」
杉井:不思議なもので、賢治が童話に託している問題が、いつの時代の問題にもシンクロしていて、「グスコーブドリ」もそうなんですが、何か不思議な力をもっていると思うんですよね。
氷川:やはり本質に迫っているからなんでしょうか?
杉井:そうですね。「銀河鉄道の夜」の場合は「生と死」というのをコンセプトにしたつもりなんですけれども、今一番大事なのは、命を見直すことなんじゃないでしょうか。やっぱり命って愛おしいもので、「銀河鉄道の夜」という作品は感覚的にそれを伝えることができていたからだと思うんですよね。
氷川:次は細田監督への質問です。「細田監督の作品には時間をテーマにしたものが多いように感じます。何かご自身の中で時間というものを強く意識したエピソードがあるのでしょうか?」
細田:確かに、「時をかける少女」もそうですし「おおかみこども」も作品の中で長い時間を経ています。意識はしていないけれど、そうかもしれないと思いました。
氷川:自覚的なわけではないんですね?
細田:そうですね……。変化していくことがおもしろいと根本的に思っているからでしょうね。下の立場の人間が上になっているとか、好きじゃなかったものが大好きになるとか。逆に大好きだったものがそうじゃなくなったりとか。その変化を促すものが、時間のような気がするんですよ。自覚がなくても1年前の自分と今の自分は違うでしょう。3ヵ月前と今とか、昨日と今とか。同じだと思い込んでいるだけで、人間関係も微妙に違うし、細胞だって入れ替わるっていうし、考え方だって変わる。
そういう変化を時間というのは与えてくれるわけですよね。それによって描くべきものがすごく魅力的に見えるというのかな。昔懐かしい風景を思い返すのもおもしろければ、今までなかった新しい街ができるというのも一方でおもしろいことだったりとか。時間というのは描くのがおもしろいテーマだと思っていますね。
氷川:次に杉井監督への質問です。「『銀河鉄道の夜に』で使われている列車のSE(効果音)というのはいったい何でできているんでしょうか?」
杉井:僕個人にとってもとても印象的でした。車内の列車音のことですよね。これは柏原満さんというSEの効果音を作っている方に、「これは生命-宇宙そのものが生命のありどころというコンセプトなので、胎児がお母さんのおなかの中にいるときに聞いている心臓の音を列車の音にしてくれ」と依頼したんですね。
柏原さんのSEが僕は大好きで、普通は効果音って、ガラスが割れたらガラスが割れた音を足すといったような、説明をするものじゃないですか? でもあの人のSEというのは、音に情感を持たせることができる。音源が何かはわからないんですが、あのカタカターン、カタカターンという音が出来上がったときにすごいなと思いました。
氷川:では、細田監督に質問です。専門学校に通ってらっしゃる方からですが、「細田監督作品に出演するのが夢ですが、どうすれば出演することが可能でしょうか?」ということです。
細田:オーディション主義なので、オーディションに参加できればいいんですよ(笑)。声優さんとか、舞台俳優さんとか、俳優さんとか、あらゆる人がいて、どのジャンルに絞るということはありません。ただ一般オーディションというのはやっていないので、キャスティングディレクターの人の連絡の届くところ、つまり事務所に所属してもらって、オーディションを受けにきてくれればそんなチャンスがあるかもしれませんね。
氷川:それでは最後にお2人に質問なんですが、音楽に関する質問で、「銀河鉄道の夜」では細野晴臣さん、「おおかみこども」では高木正勝さんを選ばれた理由というのを教えていただけますか。
杉井:これは音響ディレクターの田代と僕で、細野晴臣さんしかいないと一致したんですよ。細野さんとの打ち合わせのときに、「監督、これはどういう傾向の音楽を作ればいいでしょうか?」と聞かれて、僕はひと言、「揺れてください」と言っただけなんですね。生命の根源というものは、物理的に揺れるということなんです。白と黒、生と死の間を揺れること。それを伝えただけであの曲があがってきたので、本当に素晴らしいと思いました。
細田:僕は今でも「銀河鉄道の夜」のサントラを愛聴していますよ。高木正勝さんですが、「おおかみこども」以前は、映画音楽の仕事というのはやっていないと思うんですよね。一部分だけというのはあっても、全体を手掛けるというのはなかった。おもしろいものを作ってくれるだろうとは思っていましたが、初めてだからどうなるかわからない。でも高木さんに賭けようと思いました。
一番最初に上がってきたデモが雪山を駆け下りるシーンの「きときと-四本足の踊り」という楽曲だったんです。映画音楽を頼んで、あのシーンを一番最初に上げてくる時点で、もう高木さんという人がこの映画になくてはならない人だと思いました。高木さんは初めてだから、「これで良いと監督は言うけれども本当なのかわからない」って相当苦しまれたそうなんですけれど、僕は全然問題ないと。次々と上がってくるデモの、1曲1曲がクリエイティビティに満ちていて、こんな音楽で映画を作れるなら本当に幸せだと最初の段階で感じていました。
氷川:それでは最後にひと言ずついただいて、しめくくらせていただければと思います。
細田:自分の母親との折り合い……というと少し大げさかもしれませんが、「ありがとう」と言う機会もないまま、お別れになってしまった。だから、映画の中で主人公に気持ちを託した部分があるのかもしれません。これから世の中大変にもなっていくだろうし、どんなことがあるかはわからないけれど、でも最後は、幸せだったと思えるようになれたらいいなということを念じて作りました。ぜひそんなふうに見てもらえたらいいなと思っています。
杉井:賢治童話というのはとにかく読み手に解釈を委ねるという作り方をしていて、決してキャラクターの心情を書いたりしていないんですね。あの作品は賢治が10年かけて推敲しているんですけれど、年齢も性別も国籍も超えて、解釈を読んだ人に委ねている。僕も見た人に感じ取ってもらおうと演出しています。喜怒哀楽をキャラクターが出してしまうより無表情のほうが、賢治の意図に合っているだろうと。ご覧になった皆さんはユルい映画だと感じたかと思うんですけれど……。
細田:いやいやユルくないですよ! 一瞬も気をユルめられない映画ですよ! 映画というのは解説するのが映画なんじゃなくて、表現することが映画だと思うので、映画館にいるみんなが映画を見る以外のことをしない状態で、ひたすら映画と向き合うという、映画はそういうものであるべきだと思っています。「銀河鉄道の夜」はその緊張感が凄いですけれどね。
杉井:ありがとうございます(笑)。僕の本意としては、杉井が作った映画だと思って見てもらうんじゃなくて、みんなの中で映画を作ってもらいたい。映画って、見て感じたうえで自分の中で作り上げるものじゃないですか。それこそが映画がかつて持っていた文化の特色だと思うので、できるだけ僕は映画を見てくれた人の中で、何かが残っていくような作品を作りたいなと思っています。
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