Vol.237 『心が叫びたがってるんだ。』
マスコミ試写にて『心が叫びたがってるんだ。』を鑑賞。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』スタッフによる劇場版オリジナルアニメ。
子どもの頃のおしゃべりで家族をバラバラにしてしまった少女・順は、玉子の妖精に呪いをかけられ、話をすると腹痛が起きてしまうようになる。時は過ぎ、高校生となったいまでも話ができない順は、ある日、担任から地域交流会の実行委員に任命される。出し物はミュージカル。歌であれば声を出せることに気づいた順は、同じ実行委員である拓実に、心の中に閉じ込めていた思いを歌にしてほしいとお願いする。順の、その気持ちを伝えようとする姿に、乗り気でなかった実行委員の大樹、菜月、そして他のクラスメートも心が動かされていく。しかし、交流会前日、拓実と菜月の会話を聞いてショックを受けた順は姿を消してしまう……。
自分の一言で両親が離婚した順。両親の離婚で挑戦する気持ちがなくなった拓実。その拓実を支えられなかったことに自責の念を持つ菜月。肘を壊して甲子園への挑戦ができなくなって荒れている大樹。それぞれに問題を抱えた4人は、立候補ではなく担任から押しつけられた形で実行委員になるわけですが、その活動を通じてそれぞれの心の叫びが聞こえてきます。
順は言います。「言葉は人を傷つける」のだと。しかし、4人とも、それでも伝えたい言葉があるのです。その勇気がない。相手を傷つけてしまうことが怖いから。でも気づくのです。言葉にしなければ伝わらないことがあるのだと。そのためにきちんと相手と向き合って話をすることが重要なのだと。
どんな人にも心の奥底にフタをしてしまいこんでいることは、大なり小なりあると思います。それが思春期のころにはとても大きな存在として、重くのしかかっていることはありがちです。時間が解決してくれることもあれば、行動しなければ解決しないこともあります。
子どものころからコンピュータネット上で会話をすることが当たり前になっている現代。それで本当にいいのかなと思うことがよくあります。文字は感情を反映しません。その会話には心のぶつかりあいがない。この作品を観て感じたのは、子どもから感受性の高い思春期にかけて、直接的な対話をすることの重要性。顔を合わせて話をする、目と目を合わせて話をする。魂の叫びをぶつける。それが必要なんですよね。
大人になると、しがらみや社交辞令やらで、言いたいことが言えない場面というのは多々あります。そしてその回避方法をなんというか、ずるさとでも言いましょうか。そこから逃げることを覚えます。でもそれが本当に正解かどうかは別の話です。そのわだかまりをどうしたらいいのかをもう一度考えるきっかけとして、本作のような作品を観るのはいいんじゃないかなと思います。
それにしても……青春ですよねぇ。最初めんどくさがったりしていたクラスメイトたちが、順たちのがんばりを見て徐々に応援していく姿。いやいや参加していても、いつの間にか一生懸命になるというのは若さの証明のような気がします。
私も学生時代、文化祭の出し物である劇1本、映画2本の脚本・監督をやりましたが、最初あまり協力的ではなかったクラスメイトが、最後はクラス一丸となって夢中で参加していたんですよね。この作品を観て、ふと昔のそんな光景を思い出してしまいました。
作品としては派手な要素はあまりありませんが、登場人物たちの生き生きとした、リアルな青春群像劇として、登場人物の誰かに感情移入してしまう、そんな作品です。
それにしても……娘の話を理由にして「お前が悪いんだ」とか言ってしまう父親。そんな通学圏内で言われて困るようなことしてるのはあんたやろとw
『心が叫びたがってるんだ。』は9月19日より全国公開です。
©KOKOSAKE PROJECT
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