リリー・フランキーに大声を出させる方法 完成披露会見 後編
細田守監督最新作『バケモノの子』完成披露会見、次はメディアによる質疑応答となります。作品の裏側や、作品の影響を与えたことなど、『バケモノの子』を形作ったことの輪郭が見える会見となりました。
・舞台となった渋谷について
実在する渋谷が細かく再現されていて、渋天街というファンタジーの世界と行き来することに心躍らされると染谷さんが語る通り、本作は渋谷と表裏一体の形で存在するバケモノの街である渋天街の2つの世界が舞台となっています。リリーさんはこの渋谷について
リリーさん:「本作は現実の渋谷の街が舞台で、細かい看板まで再現されています。東京に住んでいる僕らにはその魅力がわからなかったりしますが、本作を観ると渋谷の街の魅力がわかります。外国人の方がスクランブル交差点の写真を撮っているとか、そういう意味がわかるなというか。いま地方に住んでる子とか、海外の人が渋谷に来たときの印象が『バケモノの子』のあそこだと思うように、街のイメージがこの作品で変わっていくでしょう。」
と語っています。そのくらい強烈な印象を残す渋谷という舞台について、細田監督は以下のように語りました。
細田監督:「渋谷は非常に絵になる街だということがあります。すり鉢状の谷になっていて、その谷に丘からずっと道がつながっている。映画の絵というのは坂道というのが重要なところがあります。『時をかける少女』では新宿区の中井というところをモデルにしたんですけど、やっぱり魅力的な坂道をロケーションできるということが映画の絵としてよく見えます。
さらに渋谷というのは、いろんな人が集って、そこで何が起こってるかわからない。いろんな人が生み出すバイタリティというかパワーというか、10年20年と、90年代からすさまじいパワーを発してる街だと思うんです。そういう人間たちがバイタリティを発揮してそこに住んでることが、同時にバケモノが表裏一体に住む、生きている世界というのとすごくリンクするんじゃないかなと思いました。それで渋谷という街を改めて捉え直して、映画の世界として描いてみようと思ったのです。」
・なぜいまの時代に師匠と弟子を描いたのか?
本作ではバケモノである熊徹と、人間の子どもである九太の師弟関係を軸に展開されていきます。21世紀のいま、なぜ師匠と弟子を描いたのか? 細田監督はこう語ります。
細田監督:「私事なんですけど、前作の『おおかみこどもの雨と雪』の後、我が家に男の子が生まれました。その時に考えたのが、この子のは現代にどうやって育てていくんだろう、どうやって大きくなっていくんだろうというふうなことを親として考えてみたんですね。『おおかみこどもの雨と雪』は母親が大きくしていくんだよというような映画だったんです。
それに対して、父親というのは子どもに対して何ができるんだろうと思ったときに、本当の父親だけじゃなくて、いろんな形をとった父親たちが世の中にたくさんいる。そういうたくさんの父親たちが一人子どもを育てていくんじゃないかと思ったんです。
それは先生とか、年上だけじゃなくて同年代、同級生だって、ある人にとっての師匠だったりする。子どもというのはいろんな人をみて育っていくんだろうな、それを映画にしたいなと思ったんです。
広瀬さんが演じる楓というキャラがいます。楓は女の子ですけど、役割的には師匠の一人。例えば同年代で、中学にあがると鉄道にめちゃくちゃ詳しいとか、洋楽にすごく詳しいやつがいて、同い年だけどものすごく先を行ってる人がいたりしますよね。小さなころ、そういう人の影響をいっぱい受けてるんじゃないかと思うのです。そういういろんな人たちが寄り集まって、ようやく一人の人間というのは大きくなるんだな、そういうことを映画にしてみようと思った次第です。」
・本作に影響を与えた映画
本作を観ていると、古今東西の名作の影響を受けたように見えるシーンがいくつか登場します。そこで細田監督に、本作に影響を与えた映画について聞いてみました。
細田監督:「本作に影響があるとすれば『蛇拳』ですね。『ベストキッド』よりもジャッキー・チェンの『蛇拳』。劇中に熊徹の足型をとって足に合わせて飛び跳ねてるシーンが登場しますが、あれは『蛇拳』リスペクトです。あのシーンがないと『蛇拳』を観てこの映画を作ったというふうにならないので、無理矢理入れたシーンです。
あとは『スリーメン&ベビー』かも知れません。熊徹と百秋坊と多々良。この3人の関係はどちらかというとそういう影響がある気がします。これは最初から想定していたのではなくて、シナリオ作っていくうちに『スリーメン&ベビー』みたいになってきたね、というような話をしていました。」
・出演者から観た細田監督
『バケモノの子』はとても贅沢なスタッフで作ったとおっしゃる細田監督。それと同じようにものすごい才能を持った俳優の方々、ずっと憧れてた方々と一緒に映画を作れるというのはとても幸運だと語っていました。では、出演者からみた細田監督はどのような方だったのでしょうか。
役所さん:「絵コンテを拝見したときに監督の思いというか、こういうものを目指していらっしゃるというのはよく伝わってくるんですね。監督の絵コンテというのはほんとにすばらしくて、ずっと家宝としてとっておきたい宝物です。絵コンテ=細田監督という感じがします。そこにどれだけ近づけられるかは、一人の声優としてがんばりどころだなと思いました。
監督は褒め上手というところがあります。乗せてくれるというか。最初に熊徹の絵に合わせて声を一回録音してみましょうというテストがあったんです。僕一人で何シーンかやってみて、監督が「熊徹の声ってこんな声だったんだ」っておっしゃってるのを聞いて、勇気をもらいました。もう迷わず一生懸命やろうと思いましたね。」
宮﨑さん:「基本的にとってもやさしくていつも笑顔でいるんですけど、前作をやらせていただいたときに、最後に少し笑うシーンがあったんです。演じた後、いつもだったらニコニコ入ってきて「もうちょっとこうしてください」、「こんな感じで」というような話をされるんですけど、そのときは全然笑顔じゃなくて「どう思う?」みたいな感じでした。そこにはいままで観たことがない監督がいて「宮﨑さんとしてでも、花としてでもいいけど、どう思う?」って言われて……それまで見たことがない監督がいて、私は「きっとヘタクソだったから怒ってるんだ」と思って、最後の最後に怒らせてしまったんだ、どうしようという気持ちだったんです。
その後取材のときに監督にお話ししたら、そのときは怒ってたということではなくて、たぶん終わるのが寂しいのか、もう少し違う感情でたぶんそう言ってたんだということをおっしゃっていました。
今回私は中盤でいなくなってしまうので、終盤はどんな感じだろうなと思ってたんです。すべて一度通しで録って、リテイクがあったところを何ヵ所か録り直したんですけど、私は前半だけなのでちょっと待っててくださいと言われて待ってました。そのときに、染谷くんとか広瀬さんとかがやってるのを見てたら、後半になるにつれてやっぱり監督が怖くなった感じがして、口調がちょっと違うようになってきたときに「あっ監督はまた少し寂しいのかな」と勝手に思っていたりしていました。」
細田監督:「寂しいですよね、終わるのは。後半になるに従って残り少なくなって、みなさんに言えることなんですけど、これで九太とお別れか、熊徹とお別れか、楓とお別れかと思うとね、寂しくなっちゃうんです。なんか、ちょっともうしばらく、もう5分くらいいようよ、みたいな気持ちになっちゃう。」
染谷さん:「監督はとてもいい時間を作ってくださる方で、自分がいろいろ試してみて、監督もいろいろ試してくださって向き合うというのもそうなんですけど、一緒に同じ線に立って、並んで同じ方向を見て、物作りをしている感覚ですね。ほんとに有意義な時間を作ってくださったなと思います。」
広瀬さん:「すごくほめる方だなと思いました。声の仕事は初めてで、すごいキャストのみなさんの中で楓として声ができることができるとなったときに、楓を見て身近に思ってもらえたらいいなと思いながら、すごくいろいろ挑戦させてもらいました。
監督はいいと思ったらいいと言ってくださるし、ちょっと違うなと思ったらそれも言ってくださいます。一回やって自分がもっとこうかなと思ったこととまったく同じことを監督が言いにきてくださることが何回かあって、ほんとに同じところに立って同じ方向を向いているというのをすごく感じました。」
リリーさん:「作画されてる登場人物にも、声を入れる生身の人間にも同じように尊重される方です。「もうちょっと大きな声で言ってください」みたいな雑な言い方をされる方ではありません。
最初に監督にお会いしのは、10年以上前にCMのディレクションをされているときに一緒にやらせていただきました。その時監督は、僕のラジオを聞かれてて、この人の声いいなということでその仕事に呼んでいただいたという経緯があったので、それはいつも通りの声で台本読むべきですよね。だから僕はいつも通りに普段の地声で当然読むんです。そしたら監督が「いまのすばらしいんですけど、もう1個上のテンションありますか?」って言われて、もう一つ上のテンションでやるわけです。
そうしたら「もう1個上もいいんですけど、試しにもう3個上を聞かせてもらえますか」って。最終的にセリフの後ろにビックリマークが5つ付くくらいのテンションで「!!!!!」ってやって、これ、俺じゃなくてもよかったんじゃないか?と思うところまで連れてってくれる。知らないうちに監督の世界に引き込まれていってるというかね。相手を尊重しながら監督の描く世界につれてってくれるというか。
今回もぼそぼそしゃべるブタだけど一ヵ所だけ大きな声でしゃべるシーンがありまして、10年前の5個上のテンションでって言われたときのことを思い出しました。」
大泉さん:「僕の演じた多々良は皮肉屋という役ではあったんですが、多々良の説明をしてもらったときに非常に深いんです。台本で読むより深いんです。皮肉な男だなと思ったんですけどその奥にある愛情みたいなものを説明していただきました。
僕は2日間で録ったんですけど、1日目でいろんなことを台本に入れてくれるんです。監督から多々良は『七人の侍』のあるシーンの影響があって言われて、もう少し早く教えてくれたらとは思ったんですけど、1日目終わって『七人の侍』観て、こういうことか!って多々良という人間がよくわかったんです。
ところが『七人の侍』はものすごくテンポが早いんですよ。テンポのいい台詞回しっていうのはこういうことなんだって思って2日目に挑んだら、全然リップが合わなくて(笑) ものすごく早かったな、『七人の侍』見なきゃよかったなと思ったりしました。
自分の好きな作品も惜しみなく教えてくれて、そういう雰囲気でとか、すごくわかりやすく演出していただきました。」
この後登壇者によるフォトセッションを経て、50分以上にも渡った完成披露会見は終了しました。
『バケモノの子』
7月11日、全国東宝系にてロードショー
©2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS
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