Vol.230 『日本のいちばん長い日』
マスコミ試写にて『日本のいちばん長い日』を鑑賞。1967年にも映画化されている、ポツダム宣言の受諾、日本の敗戦にまつわる男たちの物語。
敗戦色が色濃くなった昭和20年4月に発足した鈴木貫太郎内閣。ドイツの降伏、そして連合国側から最後通牒として打診されるポツダム宣言。それでもなお徹底抗戦をとなえ、本土決戦を主張する陸軍との間で結論が出ないまま時間は過ぎていく。広島、そして長崎に原爆が落とされ、ソ連が参戦。日本はいよいよポツダム宣言受諾が決定するが、その裏に様々な思いが交錯するドラマがあった……。
本作で描かれているのは、戦争という状況下における狂気と、それぞれの立場で日本という国の行く末を思う男たちのドラマ。国民を思い、大和民族の未来を守ろうとする昭和天皇、天皇の身を案じ、陸軍の暴発を抑えながら平和的解決を図る阿南陸軍大臣、法のルールを破り、死を覚悟しながらも戦争を終結させようとする鈴木総理、さらにポツダム宣言によって天皇家が隷属状態になる恐れがあることに反発する陸軍将校たち。
どうしたら少しでも有利な条件にできるか、どうしたらこれまで戦ってきた兵士・国民の傷を少なくしながら敗戦を伝えられるか、軍の面子と血気盛んな若手将校への配慮など、表裏使い分けながらの閣議での駆け引き。その静かな戦いが伝える画面の迫力・緊迫感がすごいです。
さらに、その閣議が静とすれば、それと対を成す動が、陸軍によるクーデター、いわゆる宮城事件です。大空襲によって東京が焼け野原になっている状況においても日本は負けていないと主張する陸軍。戦時というのは正確な判断ができなくなる状況下であるとはいえ、自分達の置かれている状況がまったく理解できなくなっているのでしょうね。
一億総玉砕のフレーズのもとに本土決戦の準備をする国民。女学生らが竹竿で敵を撃退する訓練をしている。陸軍は陸軍で、2000万人が特攻すれば勝てると考えているこの狂気。映画とはいえ、本当に行われていた・考えられていたこれらのシーンを観たとき、一瞬、背筋がぞっとしました。そして、その究極の形が、玉音放送を阻止すべく動いた宮城事件となります。
しかし、これはこれで国を思うがゆえの行動ではあるのです。ポツダム宣言を受諾した際、国民が受ける屈辱や、天皇家の権限が剥奪されるかも知れないという不安。そんなことは受け入れられないという気持ち。ベクトルが誤った方向に向いている、視野が自分の狭い知識の中だけにしかないというだけで、行動を起こした彼らも命をかけて真剣に考えた結果の行動なわけです。
そして、このクーデターがすばらしい緊張感を持って描かれています。静かなる戦いである閣議と、分刻みの差し迫った状況で描かれるクーデター。この対比と描き方がかなりよかったですね。
また、クーデターの首謀者となる若手将校に分する松坂桃李さんがとてもいい演技をしていました。本作では、役所広司さん、山崎努さん、堤真一さんら、豪華な顔ぶれが出演しているわけですが、その方々と堂々と肩を並べる演技をしていたと思います。
出演者といえば、昭和天皇役が本木雅弘さんなのですが、うまかったですね。非常に難しかったでしょうし、プレッシャーもあったと思うのですが、静かな物言いの中に感じさせる思いがよく出せていたと思います。
本作は名作だから観るべきということではなく、日本人なら知っていてほしい歴史です。戦後70年が経ち、すでに過去の話と思っている人もいるとは思いますが、今の日本を残すために尽力し、戦った方々がいたことは絶対に語り継いでいかなければならないと思います。日本は、今生きている世代だけで作られたわけではなく、大きな代償を払って、今があるのだと、それを知っておくことと、次の世代へつないでいくことは義務であると感じます。
『日本のいちばん長い日』は8月8日より全国ロードショーです。
©2015「日本のいちばん長い日」製作委員会
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