Vol.100 『第9地区』
TOHOシネマズにて『第9地区』を観賞。ピーター・ジャクソン制作ながら、監督も役者もほぼ無名のSF映画で、アカデミー賞4部門にノミネートされた作品。
南アフリカに飛来したUFOに乗っていたのは宇宙の難民。政府は何百万という宇宙人たちを第9地区に収容する。それから28年の月日が経ち、宇宙人と地元住民の衝突など、様々な問題を解決するため、ヨハネスブルグから200km離れた新しい収容施設に宇宙人たちを移すことを決定する。そのプロジェクトは超国家組織MNUが請け負っていた……。
この作品の主人公は、MNUでこのプロジェクトの指揮をまかされたヴィカスという、とても人のいい感じの人物。通称エビと呼ばれる宇宙人への対応は、人間としてはとても理解できる言動で、ごく普通の人という印象から物語は始まります。それが途中に起こるハプニングによって、立場が一転。ユーモアあふれる前半からストーリーが一変し、予想を超える展開へとつながっていきます。
冒頭のユーモラスなシーンから、徐々にストーリーが加速していき、クライマックスまで一気にもっていくシナリオはテンポもよく、よくできていると思います。このシナリオの裏には南アのアパルトヘイト政策や人種差別への批判が云々といったことを語る文章を見かけますが、アカデミー賞にノミネートされたということで深読みしているだけに感じます。
南ア出身の監督なので、根底に持っているものにそういう部分があったというだけなのではないでしょうか。この映画からそのメッセージを読みとるのはかなり無理がありますし、普通に娯楽作品として観て楽しむ映画だと思います。
この作品は低予算で撮られたということでB級映画とされていますが、低予算といっても、邦画だったら超大作になる金額。普通の邦画だったら5、6本撮れると思います。ハリウッドの大作映画に比べれば予算はないかも知れませんが、それをカバーしてあまりある映像クォリティは見事です。
なんといってもヨハネスブルグの上空に浮かんでいる巨大な宇宙船がとてもいいです。どのシーンでも、いつもそこに浮かんでいる。にも関わらず、映像としてとけ込んでおり、まったく違和感がない。本当にそこに浮かんでいる光景があるように思える感じでした。
また、宇宙人などのCGも浮いておらず、手持ちで撮影した映像によって臨場感も抜群。スラムと化している第9地区のほこりっぽい空気が感じられ、とてもリアリティのある画になっていましたね。
これまでのSF映画に登場する宇宙人と違い、妙にかわいらしく人類と友情を育んだり、逆に侵略行為を行うというわけではなく、難民という立場でど人間よりも下にみられているというアプローチがおもしろいです。第9地区からの立ち退きを迫るヴィカスの言葉もどこか高圧な感じがあり、実際にこのようなことになったら人間って普通こうだろうなという説得力がありました。
しかし、人間が宇宙人に対して上から目線で物を言っている裏で、第9地区からの立ち退きの本当の目的が宇宙人と人類との軋轢をなくすためではなかったり、立場が弱いことをいいことに宇宙人たちをカモにするギャング団がいたりして、本当に宇宙人がきたときに地球人は胸を張っていばれる存在であるのだろうか?という気持ちになります。宇宙人への高圧的な態度を取る前に、人類が正さなければいけないことがたくさんあるのだと、この映画は語っているのではないでしょうか。
結末としては非常にその後が気になる作りになっており、早くも続編の噂なども出てきていますが、個人的にはこの作品で完結してもらったほうがいいと思っています。低予算で作り、ヒットした作品の続編は、だいたい大幅な予算アップのために、シナリオよりも技術に頼った駄作になることが往々にしてあるので、これはここで終わりにしておいてほしいなぁと。
莫大な予算をかけてゲーム画面のような映画を作るよりも、低予算であるがゆえに工夫を重ね、これだけのクォリティ・リアリティを作ったこの作品のほうがはるかに評価できると考えます。
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