Vol.97 『復活の日』
観賞映画振り返りコラムの39回目は1980年に観た『復活の日』。小松左京さん原作の近未来SF映画。
この頃、書籍販売などのメディアミックスを大きく展開していた角川映画作品の1つで、その製作費、映画のスケールともに、それまでの邦画とは一線を画しており、よくも悪くも日本映画そのもののあり方に影響を与えた作品だと思いますし、日本でもこうした作品を作ることができるということを示してくれた映画です。
細菌やウイルスによる人類滅亡といった話は今ではごく当たり前に取り上げられるテーマではありますが、原作が書かれたのが1960年代であることなどを考えると、日本のSF小説としては突出した存在ではないでしょうか。もちろん米ソ冷戦時代の核の脅威といった、今では過去の話となってしまっている設定もありますが、そういったところを勘案しても現代でもいける気がします。
ワクチンのない細菌兵器による人類の滅亡、気温が低いため、その影響を受けなかった南極に取り残された人々。わずかに生き残ったその人々を襲う、核兵器の脅威……。映画としての盛り上がりは当然核兵器の自動報復装置を命がけで解除しにいく下りになりますが、その前に、猛威をふるう細菌になすすべなく滅亡していく世界とそれにまつわる人々の描写、逆に自分たちだけが生き残ってしまった人々の苦悩といった人間ドラマがよく描けていたと思います。
『アイ・アム・レジェンド』などでもそうですが、こういうテーマの場合、人類の滅亡よりもその後の話に重点が置かれてしまうので、そこにいたる部分がきちんと描かれていることで説得力がましている気がします。
出演者に外国人が多い点も、そのスケールを描く上では重要。その当時の主役クラスの俳優ではないにしろ、オリビア・ハッセー、ロバート・ボーン、ジョージ・ケネディ、チャック・コナーズ、ボー・スベンソン、グレン・フォード、ヘンリー・シルバといった顔ぶれが並び、豪華だなという雰囲気はありました。個人的にはジョージ・ケネディの出演がうれしかったですね。パニック映画の脇役といったらこの人!というイメージがあるので、この作品にはぴったりでした。
日本のほうもかなりの顔ぶれですが、その大半が全編で活躍できないというもったいなさというか思い切りの良さがいいです。その人の知名度を借りることにい固執してしまってぐだぐだになってしまうことがままありますから、このぐらいのいさぎよさがあったほうがいいと思います。
主役は草刈正雄さんになりますが、『戦国自衛隊』にちょい役で出演したときのセリフ「俺、忙しいんだよな」というのはこの映画を撮っていたからなんでしょうか。
この草刈さんが演じていた南極日本隊の吉住が、一人、何年もかかって北米から南極にたどりつくシーンは、日本映画に残る名シーンの1つであると私は思っています。賛否両論、いろいろありますが、たった一人、ただ歩くだけのシーンなのに、いろいろなメッセージが感じられる、とてもいいシーンだと思います。深作欣二監督の演出がSFに合う合わないということを言う人もいますが、このシーンは、私は深作監督ならではのシーンと感じています。
この映画を節目として、いわゆる角川の大作映画というのは『天と地と』までなくなってしまったのがすごく残念です。こうした野心的な作品がもっともっと出てくると、日本映画は変わっていくと思うんですけどね。
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SF映画, コラム
2010/03/28 05:06 MOVIEW