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Vol.209 『トランセンデンス』

トランセンデンス丸の内ピカデリー1での完成披露試写会にて『トランセンデンス』を観賞。クリストファー・ノーランが制作総指揮を務め、ジョニー・デップが主演した近未来SF作品。
反テクノロジーを掲げるテロリスト集団によって死の淵になったAI研究の権威である科学者ウィル。その妻エヴリンは、人工知能システムPINNにウィルの頭脳データをインストールすることに成功する。ネットワークから世界中のあらゆるデータにアクセスし、進化するウィルはやがて、神の領域に匹敵する力を得る……。


これまでも小説、ドラマ、映画、アニメなどで繰り返し描かれてきた、機械が人類を超越した存在となる物語について、最新のテクノロジー要素を盛り込んで説得力を持たせようとした作品と言えばいいでしょうか。
コンピュータは与えられたデータから計算される情報の中からもっとも合理的な結論を導き出すことには長けていますし、チェスや将棋といった分野での思考ではすでに人類を超える存在となっています。では、人と機械で何が違うのか?と言えば、自我があるかというのが、このような物語での定番です。
たとえば『2001年宇宙の旅』のHALは自我は持っていませんでしたが、矛盾したコマンドによって暴走しました。『ウォー・ゲーム』のウォーパーは自我はありませんでしたし、そもそも人類に敵意はありませんでした。『ターミネーター』のスカイネットは自我が芽生え、人類は絶滅したがっていると結論づけ、人類抹殺を開始しました。つまり、コンピュータが人類の脅威となりうるのは、自我が芽生え、自身の考えを持つようになった場合というのがこれまでの映画での描かれ方です。
そしてこの作品では、科学者の頭脳そのものをアップロードするということで、自我どころか人格といったものまで持ったコンピュータが誕生したことになります。そのとき、そのコンピュータはどのような行動をするのか? 果たして人類と敵対する存在となるのか? 人類が抗うすべはあるのか?

トランセンデンス

物語の導入部分では、インフラを失い、廃墟のようになった町で暮らす人々の姿が映し出され、これから始まる、神の領域に達したコンピュータと人類との壮絶な戦いを予感させてくれます。が、話としては少々想像していたものとは違ったというのが素直な印象でしょうか。
ノーランが製作総指揮を務め、そのノーランの作品で撮影監督をしていたウォーリー・フィスターが監督。悪役となるコンピュータにジョニー・デップですから、もうVFXばりばりのアクションで、すごい映像が観られるのではないかと思っていたのですが、そういうシーンはほとんどなく、どちらかというと静かに展開していくというイメージでしょうか。
その分、サスペンスフルにじわじわと恐怖心が高まっていく作品になっているかというと、そうした緊迫感もあまりありませんでした。あれ?変だぞ?と思っているとだんだんとその恐怖が現れてくる、たとえば『インビジブル』のような作品がありますが、そういう方向でもなかったですね。
その主要因はジョニー・デップのうまさにあるような気がします。人間であるウィルと、コンピュータとなったウィル。同じ記憶、同じ情報を持ちながら、その違いをほんとに細かいところで演じ分けるうまさ。人間のときのウィルの感情表現が、機械になってからは出ていない。にも関わらず、観ている側にはそれがどことなく伝わってくる。そしてそれが大きなキーポイントになるわけですが、そこに恐怖を感じる要素がないんですよね。
自我に芽生え、人類に勝る力を得た機械というのは恐怖の対象であるはずで、だからこそ人類VS機械という敵対関係があり、そこに物語が生まれるわけですが、この作品ではそこまで凶悪な対象として描かれない。テーマがテーマだけに、ハードSFというか、サイバーパンクをイメージして観に行くと拍子抜けするかも知れません。
そういった意味では、深いSFクラスタの方々には、肩の力を抜いて観ることをお勧めします。これだけのスタッフ、キャストが描く自我を持ったコンピュータというモチーフから想像するハードさや描写はあまりなく、それよりも、肉体を持たない人格というテーマについて描かれた作品と考えるほうがいいでしょう。

トランセンデンス

それにしてもジョニー・デップの今回の役、これまでの出演作のような派手な演技などがない分、逆にその演技力を試されているという感じがしましたね。なんていったらいいでしょうか。社会派作品に出演したポール・ニューマンとでも言ったらいいでしょうかねぇ。こういう演技もこれだけできるのだったら、弁護士役とか、企業戦士みたいな役などをやってみてもいい映画になるんじゃないかという気がしました。
作品を観るたびに、この人の幅の広さに驚くわけですが、今回の作品もまた、新しいデップ像として加わることになりました。
『トランセンデンス』は、6月28日(土)から全国超拡大公開です。

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