Vol.203 『ゼロ・グラビティ』
TOHOシネマズ錦糸町にて『ゼロ・グラビティ』を観賞。サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニー主演の……これはどのジャンルに入れたらいいんだろう? SFではないし、人間ドラマという感じではないし、サスペンスになるんですかね。
ロシアが廃棄のために破壊した人工衛星。その破片によって宇宙空間に放り出された宇宙飛行士の2人。空気も重力も音もない宇宙空間で、二人をつなぐのはたった1本のロープ。その絶望的な状況から地球への帰還を試みる……。
この作品の難しさは、なんといっても無重力をどう表現するかに尽きると思います。その昔、『2001年宇宙の旅』を初めて観たときに感じた無重力感。あれから40年以上の時間を経て、現在の技術でそれがどのように体現できるのか? それがこの映画の成功を左右するもっとも重要なファクターです。
そして、その表現は……素晴らしかった! もちろんCGも用いていますが、役者がいる以上、それだけで表現できるわけはなく、かといって、昔のように単純なワイヤーアクションではいかにも吊している映像にしかならない。新しい技術によってそれをクリアしたようですが、本当に無重力の世界にいるかのような錯覚に陥る映像でした。
特にすごかったのは、宇宙空間よりも国際宇宙ステーション内部の映像でしょうか。狭い通路を通り抜けるシーンなど、カメラも一緒に動いたスピード感のある映像になっていて、いったいどうやって撮ったのか?と……1970年代~1980年代のSF映画を観たときに、これどう撮ったんだろう?とみんなで悩んだ頃のことをふと思い出しました。
CGがあるからなんでもできるというわけではなく、やはりそこには物理的な限界があるわけで、この映画はまた一つ、新しい映像世界が誕生したというべき存在になると思います。
また、宇宙空間という存在の怖さもよく表現できていました。周りに空気がない世界というのは、水の中などでは体験できますが、その息苦しさというか、窒息感というか、そうした恐怖が非常にリアルに感じられました。もちろん演技のうまさもありますが、それに加えてカメラワークがものすごかったですね。
宇宙空間でぐるぐると回転してしまう宇宙飛行士のバイザーに映る地球や太陽、その息づかいで曇る様子、かと思えばカメラがそのバイザーの中へ入り込み、宇宙飛行士の視点でその回転する様子を捉える……。観客一人一人が宇宙空間に投げ出されたような錯覚を覚える名シーンでした。
物語としては、登場人物二人の人生にまつわる話もあり、娘を亡くした母親がこの状況で最後まであきらめず、生というものを見つめ直すという話を縦軸にしながら展開されていきます。話としてはそれほど重要ではない感じもするのですが、それがないと全体の重みがなくなってしまうというところでしょうか。
アメリカ映画でよくありがちな、次から次へと危機が訪れ、それを乗り越えてハッピーエンド的な、悪くいうと何も考えずに乗れるジェットコースタームービーになりがちな話を、この主人公の人生を反映することで深みを出していると言えます。この映画のうまさは、映像だけでなく、そうしたエピソードの盛り込み方にもあると思います。
登場人物は基本的に2人だけ。その2人だけで90分という上映時間を保たせるには、映像だけでもダメですし、登場人物の人生ばかりを前面に出しても時間が短いだけに嘘くさくなる。そのあたりのバランスが絶妙でしたね。
そういえば、二人と交信する地上の管制官にエド・ハリスがキャスティングされてました。姿は登場せず、声だけなのですが、『ライトスタッフ』や『アポロ13』に出ていた彼をアサインするあたりがおもしろいですねぇ。
今回鑑賞したのは3Dバージョンでしたが、これが非常によくできてました。違和感のない奥行き感が、その場にいるかのような臨場感を作り出していて、こういう3D映像の使い方なら納得しますし、その料金を出してもいいと思います。逆に、この映画を2Dで観たらどうなんでしょうねぇ。少なくとも、この世界に浸るには、テレビではなく映画館で観るべきだと思いますね。
『ゼロ・グラビティ』は丸の内ルーブルほかにて全国ロードショー中です。
©2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.
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コラム, サスペンス映画
2013/12/24 03:48 MOVIEW