Vol.183 『のぼうの城』
TOHOシネマズ スカラ座にて『のぼうの城』を観賞。犬童一心監督・樋口真嗣監督のダブル監督による時代劇。
天下統一の総仕上げとなる小田原・北条氏攻略。その北条方の支城である忍城攻めを命じられた石田三成2万の軍勢に立ち向かったのは、農民から“のぼう様”と呼ばれて親しまれていた成田長親。その数たった500人。長親は、この圧倒的に不利な状況をどう打開するのか?
この作品は本来、昨年秋に公開される予定だったものが東日本大震災への配慮から1年延期されました。映画の冒頭に出てくる備中高松城、それからメインの舞台となる忍城に対する水攻めの映像が、津波で大きな被害をもたらした直後に上映できないということが理由です。延期された分、その映像に手を加え、人が水に飲み込まれるようなカットは削除されたとのこと。
実際に何千トンもの水を使った映像は確かに迫力がありましたが、樋口監督らしいミニチュア撮影のカットも混ぜ込まれています。この差がどうも気になって仕方なかったのは私だけでしょうか。特撮技術としては日本最高水準だと思うのですが、実写とのギャップは埋められてなかったと思います。CGのほうがよかったような気もするんですが……。
さて、この作品の肝は、なんといっても飄々とした長親のキャラクターにあると思います。どこか頼りないし、とても戦向きとは思えない長親。小田原に出向いている主君に降参するように言われたのに、それが三成軍の使者の態度を見て戦うことにしてしまう。この絶体絶命とも言える状況でどう戦うのか?……という期待で観てしまうと肩すかしをくいます。
いろんな奇策を講じて三成軍を撃退するような戦国絵巻が展開されるのかと思っていましたが、壮絶な戦いという感じではあまりなく……。もちろん長親の家臣たちは勇猛果敢な武将揃いで、忍城に迫る敵に対して堂々とした戦いを挑むのですが、戦国物としての楽しみはそこだけ。それをカバーするのが長親を演じる野村萬斎さんのキャラです。
城の周りの農民たちに慕われる長親。味方の士気を高め、さらには敵の心もあっという間につかんでしまう領主の姿を見事に演じきっています。そして、観ていてとても愉快な、農民と一緒に踊る田楽踊り。曲作りや振付も野村さん自身が行っており、このあたりはさすが狂言師といったところでしょうか。戦国物の時代劇で、映画館が笑いに包まれている体験は初めてかも知れません。
この長親の対局となるのがくそまじめな三成の人格なのですが、その対比はあまりよく描かれていないような気もしました。三成といえば、最終的に関ヶ原の戦いで西軍の総大将となる武将ですが、実際は政治力はあっても戦いには向かない人物。秀吉のもとで出世こそしていますが、戦いで武勲を立てたという話はあまり残っていません。
それが、天下統一目前という、武勲を立てる最後のチャンスになるかも知れない状況で支城攻略を命じられ、圧倒的な大差で有利であるにも関わらず城を攻め落とせない。そのあげく、他の武将たちが手柄をあげにくい水攻めという、部下たちの心まで離れてしまう選択をする。それでも攻めきれない……。
このあたりの三成のあせりや、上司としての部下の人心掌握といった部分を比較することで、この物語はさらにおもしろくなると思うのですが、どうもそこまでキャラが立ってなかった気がします。そこがちょっと残念です。
この作品は、映画化が発表されてからずっと楽しみにしていました。歴史物が好きだということもありますが、舞台となっている行田・鴻巣は祖父母の出身地で、二人とも庄屋の家系。そこに、農民を巻き込んだ、このような歴史があったとはまったく知らなかったので、早く映画が観たいと思っていました。
石田堤の存在は知っていましたが、天下統一後に治水のために作ったものだとばかり……。まさか水攻めのための堤だったとは……。まだまだ身近にも、知らない歴史があるんですねぇ。今度行田へ行く機会があったら、少しそのあたりを回ってみたいと思います。
そうそう、この映画でいちばん驚いたのはパンフレットの表紙です。主人公の顔が下半分で、しかも背にかかって折れている。役者の顔をこんな扱いをする表紙、初めて見ました! こんなデザインをしたら普通、思い切り叱られますよ……。
『のぼうの城』は全国東宝系にて超拡大ロードショーです。
©2011『のぼうの城』フィルムパートナーズ
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コラム, 時代劇映画
2012/11/12 04:43 MOVIEW