Vol.130 『攻殻機動隊 S.A.C SOLID STATE SOCIETY 3D』
マスコミ試写にて『攻殻機動隊 S.A.C SOLID STATE SOCIETY 3D』を観賞。TVスペシャルアニメとしてペーパービュー放映された『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』を3D化し、劇場公開する作品。
TVスペシャルといってもその緻密な描写、シナリオともにすでに劇場版に匹敵するクォリティを持った作品だっただけに、今回の3D化によってスクリーンで観られるのはファンにとってはうれしいのではないでしょうか。
『攻殻機動隊』シリーズは士郎正宗さんの近未来SFコミックを原作とし、劇場版、TVシリーズのアニメが制作されました。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』はTVシリーズ2作品の続編として作られたオリジナル長編ですが、TVシリーズを観ていなくても楽しめます。
電脳化技術によって脳とネットワークが接続され、様々な情報を直接取り込んだり、他の人と共有できるようになっている世界で、ハッカーなどの犯罪者と戦う公安9課の活躍を描いています。そのバックグラウンドには、現在抱えている少子高齢化などの諸問題がリアルに反映されているだけでなく、緻密に計算されたストーリー展開がサスペンス作品としても優れた作りになっています。
今回の3D化に当たっては、セルアニメの表現を崩すことなく、絶妙な奥行きを持たせています。また、電脳化されたキャラクターの情報のやり取りが、その視野の中にウィンドウとして表示されるのですが、この部分の3D表現がとてもよくできています。
アニメの3D作品というと、3DCGを用いた『トイ・ストーリー』のような作品をイメージしますが、日本で作った作品はどうも違和感を感じていました。『よなよなペンギン』のように、セルアニメのような演出をしてうまくいった作品もありますが、成功と言える作品はそれほどない気がします。
3DCGの場合、すべてを計算して作り出さなければならず、そこにはゆらぎというか、計算ではできない絵や動きが入り込めません。そのためにどうしても、どこか冷たい動きに感じることがままあります。TVアニメなどでもコンピュータが導入され、メカがすごく動くようになった分、動き方に違和感を感じることがあります。
正しい動き・パースなのかも知れませんが、人間の目というのは錯覚を起こすように作られているので、それが正しく見えないこともあると。まっすぐの線でも周囲によって傾いて見えたり、同じ長さでも違って見えたりすることがありますよね。絵を描くときにはそういう部分を補正して少し斜めに書いて、見た目まっすぐに見えるようにしたりするわけですが、計算でやるとそうはいかない。傾いて見えてもまっすぐはまっすぐにしか描けないと。
そういう感性の部分を補うことは日本人がとても得意な部分なんだと思います。そう考えると、アメリカのアニメが3DCGになったからといって、日本もマネしなきゃいけないということはないですし、フルアニメが当たり前のアメリカと違う、ジャパニメーションと呼ばれる日本独特のアニメを生み出し、育んできたわけですから、3Dの表現も日本風にすればいいんじゃないでしょうか。
そういった意味では、この『攻殻機動隊 S.A.C SOLID STATE SOCIETY 3D』は、日本のアニメを3Dにする一つの手法を提示した作品であり、それがとてもうまく表現できていると思います。
個人的にはなんでもかんでも3D化すればいいというものではないと思っています。先日も、去年3D上映された映画をDVDで観たのですが、3D効果を高めるためのアングルであったり、物が手前に飛んでくる構図が多用されていたりしました。DVDで普通に2Dで観ると、そういったカットが非常に浮いていて、普通の映画だったらこんな撮り方しないよなという感じで、なんかそこでさめてしまうというか、台無しになってしまうというか……。そういうカットが気になって話に入り込めないんですよね。
3Dという効果を使うことによってその映画がよくなるのだったらいいのですが、無理矢理その効果を入れ込んで失敗している、そういう作品が非常に多い気がしています。その点この作品はとても効果的に使っていますし、こういう使い方ならありだなと思います。
『攻殻機動隊 S.A.C SOLID STATE SOCIETY 3D』は3月26日より新宿バルト9他にて全国公開です。
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コラム, 劇場版アニメ・イベント上映
2011/01/27 04:51 MOVIEW