Vol.33 『犬神家の一族』
観賞映画振り返りコラム7回目は『犬神家の一族』。1976年版の、角川映画第1弾。初めて自分でお金を出して観に行ったのがこの映画です。当時、江戸川乱歩やアガサ・クリスティ、横溝正史といった推理小説をかたっぱしからよみあさっていて、この『犬神家の一族』が映画化されるということで非常に楽しみにしていました。
この映画がきっかけとなり、横溝正史ブームが起こり、映画会社各社がこぞって長編小説を映画化したのは周知のところ。金田一耕助も、この『犬神家の一族』の石坂浩二さん、『八つ墓村』の渥美清さん、『悪魔が来りて笛を吹く』の西田敏行さんと様々な役者が演じていますが、やはりこのあと4本を演じることとなる石坂浩二さんというのが一般的には印象が強いのではないでしょうか。個人的にはテレビの『横溝正史シリーズ』の古谷一行さんがいちばん原作のイメージに合っていると思うのですが。
内容は横溝正史独特の血で血を洗う惨劇、名家にまつわる因縁、そして、戦後すぐの混乱期を舞台とした物語が展開されるわけで、凄惨な殺人事件が続く映像の中、どこか懐かしい、日本の古きよき時代の原風景といった雰囲気が漂う映像はやはり名匠と呼ばれる市川崑監督の手腕と言えるでしょう。
おどろおどろしい血塗られたシーンにも関わらず、ぽつんぽつんと差し込まれる絵になる風景と、印象的な色彩。数々の名監督がいますが、こういう絵は市川監督がピカ一だなぁと思いますね。後年の『悪魔の手鞠歌』のときも、壊れた自転車で坂道を猛スピードで駆け下りる金田一耕助のシーンで、間に林が風に揺れるカットを一瞬だけ入れるといった演出をしていましたが、こういうことができ、しかもそれが印象的であり効果的である映像になっている……これこそ市川ワールドです。
実は市川+石坂の金田一映画を映画館で観たのはこの作品だけだったりします。あとの作品はみんなテレビで観ました。なんかこう、ブームになってしまって、みんなが横溝横溝と言って観に行ってるのを見て白けてしまったというか。でも後でテレビ放映時に観て、この『犬神家の一族』がいちばんの名作だった、これを観に行って正解だったなと思いました。
そういえば先月、2006年にリメイクされた『犬神家の一族』をテレビでやっていましたが、同じ構図、カット割りで作ったにも関わらず、1976年版のほうが数段上に思えました。近年のテンポの速い映画に慣れてしまうと、いま作っているのに30年前と同じテンポというのはちょっとつらいですよね。もちろん1976年版をいま観れば同じ感じるのかも知れませんが……。
コラム, 推理小説・ミステリー映画
2009/01/12 04:28 MOVIEW